人間ドックで「ASTが高い」と言われたあなたへ

人間ドックや健診の結果で、

  • 「AST高値」
  • 「GOTが基準値を超えています」

と書かれているのを見て、不安になった方へ。

結論から言うと、ASTが少し高いからといってすぐに命に関わるとは限りません。ASTはALTよりも「肝臓以外(心臓・筋肉など)」の情報も含んでいる検査なので、「どれくらいの高さか」「ALTやほかの項目とどう組み合わさっているか」を一緒に見ることが大切です。

人間ドック学会の判定基準

ABCD
AST(U/L)30以下31〜3536〜5051以上

※ A:異常なし、 B:軽度異常、 C:要再検査・生活改善、 D:要精密検査・治療

この記事では、ASTについて、人間ドック・健診を担当する医師の立場からやさしく解説します。


目次

ASTってそもそもどんな検査?

AST(エーエスティー)は、昔は「GOT」と呼ばれていた酵素です。体の中では、

  • 肝臓
  • 心臓
  • 筋肉
  • 赤血球 

などに多く含まれています。

これらの細胞が傷つくと、中にあるASTが血液中に漏れ出てきて、その量を採血で測っている、というイメージです。

ALTと違うのは、

ALT:ほとんど「肝臓専用」の指標
AST:肝臓に加えて「心臓・筋肉などのダメージ」も反映しうる

という点です。


ASTとALTの違い:ざっくりこう考える

人間ドックの結果では、ASTとALTが並んで書かれていることが多いですが、役割は微妙に違います。

  • ALT:
    → 主に肝臓の細胞の傷みを見る。
  • AST:
    → 肝臓のほか、心臓や筋肉の情報も混ざっている。
    → 「肝臓だけの話」かどうかは、ALTやほかの検査とセットで判断する必要がある。

一般的には、

  • 脂肪肝では「ALT優位(ALT>AST)」になりやすい
  • アルコール性肝障害や肝硬変では「AST優位(AST>ALT)」になりやすい

といった「パターン」が参考にされることがありますが、あくまでこれは目安であり、これだけで病態を決めつけることはできません。


AST高値のよくある原因

人間ドックの場面でASTが高いとき、背景として多いのは次のようなものです(ALTとだいぶ重なります)。

  1. 脂肪肝(お酒を飲まない人も含む)
    • メタボ・体重増加とセットで起こりやすい
  2. アルコール性肝障害
    • 日常的に飲酒量が多い場合、AST・ALT・γ-GTPが揃って高くなることが多い
  3. ウイルス性肝炎(B型・C型など)
    • 人間ドックで一緒に肝炎ウイルスの検査が行われていることも多いですね
  4. 薬・サプリメントによる肝障害
    • 一部の薬やサプリでもAST・ALTが上がることがあります
  5. 心筋や筋肉のダメージ
    • 心筋梗塞、筋トレ、筋損傷、横紋筋融解症など

特に、健診でよく問題になるのは「1〜4」です。5は、症状(胸の痛み、筋肉の痛み、尿の色の変化など)を伴うことが多く、健診で偶然見つかるというよりは、外来の受診時に評価されることが多いです。


数値の高さよりも、「パターン」と「変化のしかた」

ASTが高い、と言われたときに大事なのは、ALTの記事と同じく、

  • どのくらい高いか
  • 他の項目とどう組み合わさっているか
  • 以前と比べてどう変化しているか

の3つです。

ざっくりとしたイメージはこんな感じです。

軽度〜中等度の上昇

  • ASTが基準値を少しこえる
  • ALTも同じくらい、またはALT優位
  • γ-GTP、脂質、血糖なども少しずつ悪い

この場合、

「脂肪肝+飲酒+メタボ」など、生活習慣型の肝障害がじわじわ進んでいるサインであることが多いです。すぐに命に関わる状態ではなくても、「今のうちに生活を整えないと、将来的に肝臓や血管の病気のリスクが上がっていく」タイプです。

明らかに高い/急に悪化している

  • ASTが100以上〜数百と大きく高い
  • ALTも一緒にかなり高い
  • 急に悪化している
  • 黄疸、だるさ、食欲不振などの症状がある

この場合、急性肝炎や薬剤性肝障害など、より重い病気を表している可能性があり、早めの受診が必要です。

また、ASTだけが高くてCK(筋肉から出てくる酵素)なども高い場合には、筋肉のトラブルが背景にあることもあります。


こんなときは医療機関(内科・消化器内科)へ

人間ドックの結果を見て、次のような場合は医師に相談しましょう。

  • ASTが明らかに高い(例:100以上)
  • AST・ALT・γ-GTPがまとめて高い
  • 黄疸(皮膚や目が黄色い)、強い倦怠感、食欲低下、尿が濃いなどの症状がある
  • 去年までは正常だったのに、今年急に悪くなっている
  • B型・C型肝炎ウイルスに関する検査で異常を指摘された
  • 最近、新しい薬やサプリを飲み始めてから数値が悪化した

こうしたケースでは、人間ドックの結果報告書を持って受診することで、

  • 詳細な血液検査(肝炎ウイルスマーカー、自己免疫関連など)
  • 腹部エコー
  • 必要に応じてさらに詳しい検査

などにつながります。



日常生活でチェックしておきたいこと

ASTに限らず「肝機能」全体のために、次のポイントを見直してみてください。

  1. ここ1〜2年で体重や腹囲はどう変わったか
    → 増えているなら、脂肪肝などの肝臓の変化も進行しているかもしれません。
  2. 飲酒習慣
    → 「量を減らす」だけでなく、「休肝日をつくる」を目標にするのがおすすめです。
  3. 筋トレ・スポーツとの関係
    → 検査前の数日に、いつもより激しい筋トレやマラソンなどをしていると、ASTが上がることがあります。
  4. 内服薬・サプリメント
    → 市販薬や市販のサプリメントも含め、「何をどれくらい飲んでいるか」を書き出しておくと、受診時に役立ちます。

まとめ(ASTが高いと言われたとき)

  • ASTは肝臓だけでなく、心臓や筋肉にも関係する酵素で、ALTよりも「全身の情報」が混ざる検査です。
  • 人間ドックでAST軽度高値といった場合、多くは脂肪肝やアルコール、生活習慣などが背景にあることが多く、すぐ命に直結するとは限りません。生活習慣の改善をしていきましょう。
  • ただし、AST・ALTともにかなり高い、黄疸や強いだるさなどの症状がある、急に数値が悪化した、といった場合は、急性肝炎など重い病気の可能性もあるため、早めに内科(消化器内科)を受診しましょう。
  • 軽度の異常で「様子見」と言われた場合も、「何もしなくていい」ではなく、飲酒・食事・運動などの生活習慣を整えることで、将来の肝臓トラブルや血管の病気のリスクを下げることができます。
  • ASTの値は、一回だけで判断するより、過去の健診結果と見比べて「じわじわ悪化していないか」「急に悪くなっていないか」を確認することが大切です。疑問があれば、結果票を持って医師に相談してみてください。


サイト「さすらい先生の予防医療ナビ」では、人間ドック・健診でよくある所見について、

  • 「どこまで心配すべきか」
  • 「どこからは病院に相談した方がいいか」
  • 「日常生活では何を整えればいいか」

などを、現場目線で解説していきます。

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