人間ドックで「左脚ブロック」「左脚前枝ブロック」と言われたあなたへ

健診や人間ドックの心電図で、

「左脚ブロック」
「完全左脚ブロック」
「左脚前枝ブロック」
「左脚後枝ブロック」

と書かれて、「心臓が悪いってこと？」「放っておいていいの？」と不安になった方も多いと思います。

結論から言うと、

左脚前枝／後枝ブロックの一部は、健常な人にも見られることがあり、必ずしも重い病気とは限りません。
「完全左脚ブロック」は、高血圧や心臓の筋肉や弁の病気、虚血性心疾患などに伴って出てくることが多く、循環器内科で心臓の状態をチェックしておく必要がある所見です。

人間ドック学会の判定区分では、

不完全左脚ブロックは「 B（軽度異常）」、
左脚前枝ブロック・左脚後枝ブロックは「 C（要再検査・生活改善）」
完全左脚ブロックは「 D（要精密検査・治療）」

とされています。

この記事では、左脚ブロックについて、人間ドック・健診を担当する医師の立場からやさしく解説します。

左脚ブロックとは何か？

臓には、規則正しく自分を動かすために「電気の配線」が張り巡らされています。これを刺激伝導系といいます。

刺激伝導系の経路は、次のようになっています。右心房の上の方にあり心臓のリズムを決めている「洞結節」という部分から心臓の中心にある「房室結節」という中継点へ電気信号が送られ、そこから「ヒス束」という短い配線を通ったあとに、「右脚」「左脚」という太い配線に分かれます。「右脚」「左脚」はそれぞれ主に右心室と左心室に電気信号を送ります。このうち、「左脚」はさらに二股に分かれており、それが「左脚前枝」と「左脚後枝」です^※1。

この配線のどこかが傷んだり伝わり方が遅くなったりしているのを心電図上で捉えた場合、「◯◯ブロック」と言われます。

左脚ブロック（完全左脚ブロック）とは？

左脚ブロックは、心室への電気の配線のうち「左側の太い線（左脚）」を通る電気がうまく伝わらず、左心室が“遠回りルート”で興奮している状態です。

心電図上では、左脚を通る電気が遅れることで

QRS波が広くなる（電気が心室全体に広がるのに時間がかかる）
V1〜V6の波形がある特徴的な形になる

といったパターンが現れますが、一般の方はここまでは気にしなくてよいと思います。

右脚ブロックと違うポイントは、

左心室は、全身に血液を送り出すメインポンプであり、
左脚ブロックは、左心室を中心とした心臓の筋肉や構造に負担がかかっていたり障害が生じているときに見られることが多い

ということです。つまり、右脚ブロックほどの軽い所見ではないということですね。

左脚前枝ブロックとは？左脚後枝ブロックとは？

左脚前枝ブロックは、左脚のうち「前側」に向かう枝だけ、電気の伝わりが悪くなっている状態です。左心室全体に電気が行かなくなるわけではなく、右脚や左脚後枝から回り道をして、最終的には左心室全体が興奮します。

そのため、

完全左脚ブロックほどQRS波が広がるわけではない
心電図上の「電気の向き（軸）」が、やや上・左に偏る（左軸偏位）といった形で現れる

といった心電図上の変化がみられます。

左脚前枝ブロックは、心電図で比較的よく見られる所見です。単独で見つかったからといって、それだけで重い心臓病があるとは限りません。一方で、高血圧や冠動脈疾患など、心臓に負担がかかる病気を持つ方で見つかることも多く、そのような持病がある人では“心臓の配線に負担がたまってきているサイン”として扱われることがあります。

そのため、「左脚前枝ブロック単独ですぐに重い病気と関係があるとは言えないが、心電図などで心臓の状態を定期的に見ていく必要はある」くらいの位置づけになります。

一方、左脚後枝ブロックは、左脚の「後ろ側・下側」に向かう枝の伝わりが悪くなっている状態ですが、左脚後枝ブロックは単独で見つかることはほぼなく、ほとんどが右脚ブロックに合併しています（その場合、２枝ブロックということになります）。

こんな症状があるなら、循環器内科へ受診を

左脚ブロックや左脚前枝ブロックと書かれていて、次のような症状がある場合は、一度循環器内科で相談することを強くおすすめします。

胸の痛み、締め付け感、胸の圧迫感がある
階段や坂道での息切れが以前より明らかに強い
動悸がよく起こる、脈が乱れる感じがする
意識が遠のきそうになる、実際に気を失ったことがある

これらは、虚血性心疾患（狭心症・心筋梗塞）や心不全、不整脈など、左脚ブロックの背景に心臓の病気が隠れているサインである可能性があるためです。

「左脚ブロックを治す薬」はある？

左脚ブロックそのものを元通りにする薬は、基本的にありません。治療の対象になるのは、

左脚ブロックの背景にある心臓病（虚血性心疾患、心筋症、弁膜症、心不全など）
高血圧、糖尿病、脂質異常症など、心臓の負担を増やす要因

です。

一部の人では、心不全と合わせて左脚ブロックがみられ、心室の収縮のタイミングがバラバラになることで心臓がポンプ機能を十分に果たせていない状態になっていることがあります。そのような場合、「心臓再同期療法（CRT）」と呼ばれるペースメーカー治療が検討されることがあります。

「様子を見て」と言われたときに意識したいこと

健診や外来の受診で、左脚前枝ブロックや、症状のない完全左脚ブロックがあるが心エコーなどで大きな異常はなく医師から「定期的なフォローで大丈夫」と言われた場合には、次のポイントを意識しておくとよいでしょう。

心電図は毎年の健診などでフォローする
新たな症状（胸痛・息切れ・むくみ・失神など）が出ていないか、日々なんとなく気にかけておく
高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙など、心血管病のリスク因子に気をつける
体重やお腹周り、運動習慣など、生活習慣全体を整える

左脚ブロックは、「心臓を丁寧にケアする必要がある」サインとして、生活を見直すきっかけにしてもらうのがよいと思います。

まとめ（左脚ブロック・左脚前枝／後枝ブロック）

左脚ブロックは、心臓の電気の通り道のうち「左脚」を通る電気の流れが遅れたり途切れたりしている状態で、心電図上で分かる所見です。
完全左脚ブロックは、心筋症・心筋梗塞・高血圧性心疾患・弁膜症など、心室に負担がかかる病気に伴ってみられやすく、健診で初めて指摘された場合でも、循環器内科で心エコーなどを受けて背景に病気がないか確認しておく必要があります。
左脚前枝ブロックは、比較的よく見られる所見で、単独では必ずしも重い病気を意味しませんが、高血圧や虚血性心疾患などとの関連も報告されており、心臓のチェックをしておくきっかけになります。
胸痛・息切れ・失神・むくみなどの症状がある場合や、左脚ブロックに加えて他の心電図異常がある場合は、早めに循環器内科を受診して原因を確認しましょう。
「経過観察でよい」と言われた場合も、毎年の心電図や心エコーの結果を保管しつつ、血圧・脂質・血糖・体重・禁煙・運動など、心臓病のリスクを下げる生活習慣づくりがとても大切です。