人間ドックで「LDL高値」「悪玉コレステロールが多い」と言われた方へ

人間ドックや健診の結果で、

「LDLコレステロール高値」
「悪玉コレステロールが高めです」

と書かれているのを見て、「悪玉というのはよく聞くけど、何を気をつけたらいいのか分からない」「この値が高いと具体的にどうなるのか知りたい」という方もいらっしゃると思います。

結論から言うと、LDLコレステロールが少し高いだけで、すぐに重い病気・即治療ということではありません。一方で、長い目で見ると心筋梗塞や脳梗塞のリスクに関わる数字なので、「放置でいい」数字でもありません。

人間ドック学会の判定基準

	A	B	C	D
LDLコレステロール（mg/dL）	60〜119	120〜139	140〜179	59以下、180以上

※　A：異常なし、　B：軽度異常、　C：要再検査・生活改善、　D：要精密検査・治療

この記事では、LDLコレステロールについて、人間ドック・健診を担当する医師の立場からやさしく解説します。

LDLコレステロールってそもそも何？

「悪玉」と呼ばれる理由

コレステロール自体は、細胞膜やホルモンの材料になる体に必要な脂質です。そのコレステロールを運ぶ“運び屋”がいくつかあり、その一つが「LDL（low-density lipoprotein）」です。LDLは、肝臓から全身の細胞へコレステロールを運んでいます。LDLが多いと血管の内側にコレステロールがくっつきやすくなり、動脈硬化（血管の老化）を進めてしまうため、一般的に「悪玉コレステロール」と呼ばれています。

一方、HDLは血液中のコレステロールを回収して肝臓に戻す役割をしています。HDLが多いと血液中や血管壁のコレステロールは減りますので、動脈硬化は進行しにくくなります。これが「善玉」と言われるゆえんです。

なぜLDLが高いとよくないのか

LDLが高い状態が長く続くと、

心臓の血管が狭くなる → 狭心症・心筋梗塞
脳の血管が詰まる → 脳梗塞
足の血管が狭くなる → 閉塞性動脈硬化症

といった、命や生活の質に直結する病気のリスクが上がることが分かっています。
LDLコレステロールの検査によって、こうした将来の病気のリスクを早めに調べることができます。

健診結果のLDL値はどう読む？目安の考え方

診断基準としての目安

脂質異常症の診断基準として、よく使われている目安は次の通りです。

140 mg/dL以上：高LDLコレステロール血症
120〜139 mg/dL：境界域高LDLコレステロール血症

健診の結果票では、

「LDL 140以上」だと「要経過観察・生活指導」などのコメント
数値がさらに高い、あるいは他の危険因子もあると「要医療」コメント

がつくことがあります。

「診断基準」と「あなたにとっての目標値」は別物

もう一つ重要なのが、

「診断基準（140以上なら高LDL）」と
「あなたにとっての目標値（何mg/dLを目指すか）」

は別物、という点です。

日本動脈硬化学会のガイドラインでは、喫煙や糖尿病の有無など、動脈硬化のリスクに応じて管理目標値を変えることが推奨されています。また、心筋梗塞や脳梗塞などをすでに起こしてしまった人に対しては別立てて管理目標値が決められています。例えば、心筋梗塞を起こしたことがあるような人の「二次予防」では、LDLを100 mg/dL未満、さらに高リスクでは70mg/dL未満を目標とする、などです。

同じ「LDL 150 mg/dL」であっても、

持病のない30〜40代の人にとっては「生活習慣を整えて経過を見る」レベル
心筋梗塞を起こしたことがある人にとっては「薬でしっかり下げたい」レベル

と、その人の背景によって意味が変わるのが LDL の値の特徴です。

LDLが高いときに考えられること

1. 生活習慣による「高LDLコレステロール血症」

もっとも多いのは、次のような要因が重なって起きる高LDLです。

飽和脂肪酸の多い食事（脂身の多い肉、バター、揚げ物など）
カロリー過多による肥満・内臓脂肪
運動不足
喫煙
遺伝的な体質（家族にもコレステロールが高い人が多いなど）

このタイプは、食事・運動・体重管理の影響を受けやすいのが特徴です。

2. 家族性高コレステロール血症などの遺伝的な病態

LDLが180〜190 mg/dL以上と非常に高い
若い頃から数字が高い
親・兄弟姉妹に同じようにコレステロールが高い人が多い
若いうちに心筋梗塞を起こした家族がいる

といった場合は、「家族性高コレステロール血症（FH）」など、遺伝性の病気が隠れていることがあります。
この場合は、生活習慣の見直しだけでなく、早めに専門的な診断と治療を受けることが重要です。

3. ほかの病気に伴う二次的な変化

甲状腺機能低下症
ネフローゼ症候群
糖尿病
一部の薬剤（利尿薬、ステロイドなど）

といった病気や治療が原因で、（二次的に）LDLが上がっていることもあります。

どんな人は受診した方がいい？

ここでは「人間ドックで初めてLDLが高いと言われた人」を想定して、目安を整理します。

まず受診をおすすめしたいケース

次のような場合は、内科で相談してみてください。

LDLが160 mg/dL以上など、明らかに高い
LDLが140 mg/dL以上で、かつ以下のような危険因子が複数ある
（高血圧、糖尿病、喫煙、肥満、家族に心筋梗塞の人がいる　など）
検査結果に「要治療」「医療機関の受診をおすすめします」と書かれている
以前から「コレステロール高め」と言われているのに、再検査や相談をしていない

これらに当てはまる場合、生活習慣の改善だけでは不十分で、薬による治療を検討した方が良いケースの可能性があります。

まずは様子を見ながら生活改善でもよいことが多いケース

一方で、例えばこんな場合は、

LDLが120〜139 mg/dL（境界域）くらい
動脈硬化の危険因子や家族性の要素は特になし
明らかな肥満体型ではない
その他の血液検査はおおむね問題ない

という場合、いきなり薬を使うのではなく、「生活習慣の改善＋数ヶ月〜1年後の再検査」で様子を見るという選択も現実的です。

もちろん「心配だから一度医師に数値やリスクについて相談したい」というのも立派な理由なので、「この程度で受診していいのかな…」と遠慮する必要はありません。

日常生活でできるLDL対策

LDLコレステロールは、生活習慣の影響を受けやすい項目の一つです。今日からできるポイントを整理します。

食事のポイント

肉の脂身・バター・ラード・マーガリン・ショートニングなど、「飽和脂肪酸・トランス脂肪酸」をとりすぎない
揚げ物・スナック菓子・菓子パンなどを「毎日」→「週○回」に減らす
魚（特に青魚）、大豆製品、野菜、海藻、きのこ類を増やす
間食・甘い飲み物の量を見直す

いきなり完璧を目指す必要はなく、「毎日の“いつものパターン”を少しずつ変える」という意識で十分です。

体重と運動

BMIが高め・お腹周りが大きい人は、体重の5〜10％程度の減量で血圧・脂質・血糖などが総合的に改善しやすいと言われています。
目安として、週に合計150分程度の汗をかくレベルの有酸素運動を続けると、コレステロールだけでなく全身のリスク管理に有効です。

お酒とタバコ

飲み過ぎは体重増加・中性脂肪増加の原因になり、その結果としてLDLにも悪影響が出ます。
「同じLDL値でも、喫煙者の方が動脈硬化が進みやすい」ことが分かっています。
→ LDLが高めで喫煙もしている場合は、禁煙がとても重要な対策になります。

おわりに

「悪玉コレステロールが高い」と言われると、「このままだと心筋梗塞になるのでは」と不安になる方もいらっしゃると思います。

ただ、実際の診療の現場では、

LDLが少し高い人はそこそこ多い
すべての人がすぐに薬で治療する必要があるわけではない
年齢・他の病気・家族歴などを合わせて「あなたにとっての適切な目標値」を決める

という流れで、総合的に判断していく数字です。

LDLが少し高いだけ
他の検査は大きな異常がない
医師からも「生活で様子を見ましょう」と言われている

のであれば、必要以上に自分を責めたり、過度に不安になる必要はありません。

一方で、

数値が明らかに高い
高血圧や糖尿病などの持病がある／喫煙している
家族に若くして心筋梗塞になった方がいる
どうしてもモヤモヤが消えない

という場合は、「こんなことで受診していいのかな」と遠慮せずに、内科で相談してみてください。