【医師執筆】腫瘍マーカー総解説|それぞれのマーカーの意味をお伝えします

人間ドックのオプションで「腫瘍マーカー」の検査を受けた方の中には、聞き慣れないアルファベットの羅列に戸惑った方もいらっしゃると思います。
この記事では、腫瘍マーカーを一つずつ取り上げ、それぞれが何を表す数値なのかを解説しました。

腫瘍マーカー検査の限界

腫瘍マーカーは、”がん”に反応して体内で作られることのある物質を測定する検査です。
自覚症状のない段階で”がん”を発見するきっかけになることがある一方で、この検査だけで”がん”の診断はできません
というのも、良性の病気や、生理的な変化に伴って数値が上がることもあり、逆に、がんがあっても数値が正常範囲にとどまることもあるからです。
腫瘍マーカーの異常値が出た場合は、精密検査(画像検査など)と組み合わせて総合的に判断されるものだと理解しておくことが、結果を正しく受け止める第一歩になります。

目次

CEA

  • 対象臓器:全身(臓器特異性が低い)
  • 基準値の目安:5.00 ng/mL以下

CEAは「がん胎児性抗原」と呼ばれ、胃がん・大腸がん・膵がん・胆道がんなどの消化器系の”がん”に加えて、肺がん・乳がん・甲状腺がんなど、幅広いがんで上昇することが知られています。特定の臓器に絞り込む力は弱く、経過観察や再発・転移の確認に使われることが多いマーカーです。

喫煙や加齢だけでも軽度上昇することがあり、慢性的な炎症性疾患でも数値が上がることがありますので、CEAが軽度に上昇しているだけですぐに慌てる必要はなく、他の検査結果や症状とあわせて医師が判断します。

禁煙することによって、CEAが数ヶ月から半年程度かけて数値が徐々に低下していくケースがあります。

シフラ(CYFRA21-1)

  • 対象臓器:肺
  • 基準値の目安:3.5 ng/dL以下

シフラ(CYFRA21-1)は非小細胞肺癌がんで上昇しやすいマーカーです。腺癌でCEAと同程度、SCC抗原よりも高い陽性率を示し、扁平上皮癌では他のマーカーよりも高い陽性率を示します。化学療法や手術後の治療効果を確認する補助としても用いられます。
間質性肺炎や結核といった肺の良性疾患、食道がんや子宮頸がんなどでも上昇することがあります。

CA19-9

  • 対象臓器:膵臓・胆道・胃・大腸・卵巣
  • 基準値の目安:37.0 U/mL以下

CA19-9は膵がん・胆道がん・胃がん・大腸がんなどで上昇し、治療を含めた臨床経過をよく反映するとされるマーカーです。膵がん・胆道がんで陽性率が80〜90%、胃がん・大腸がんでは30〜50%とされています。
一方で、胆石症・糖尿病・膵炎・肝硬変・卵巣のう腫といった良性疾患でも上昇することがあります。

CA19-9は「ルイス式血液型抗原」という物質をもとに作られる糖鎖抗原のため、日本人の約5〜10%を占めるルイス式抗原陰性の方では、たとえ進行がんがあってもCA19-9がほとんど上昇しないことがあります。この体質の方の膵臓・消化器系のがんを追跡する際には、後述するDUPAN-2やSpan-1といった代替マーカーが使われることがあります。

NSE(神経特異エノラーゼ)

  • 対象臓器:肺(特に小細胞がん)、神経内分泌腫瘍

NSE(神経特異エノラーゼ)は肺小細胞がんや神経芽腫、その他の神経内分泌腫瘍で上昇するマーカーです。基準値は測定方法によって幅があるため、検査を受けた施設の基準値表記を確認することが必要です。
溶血(採血した血液の赤血球が壊れること)の影響を受けやすく、採血条件によって数値が変動しやすいという特徴も知られています。

肺がんは組織型によって使われるマーカーが異なり、NSEは主に小細胞がんの経過観察に、シフラやSCC抗原は非小細胞がん(扁平上皮がんなど)に、それぞれ使い分けられる傾向があります。

DUPAN-2

  • 対象臓器:膵臓・胆道

DUPAN-2は膵がんや胆道がんで上昇するマーカーで、CA19-9とは異なり、ルイス式抗原の影響を受けにくいという特徴を持ちます。単独で使われることは少なく、CA19-9やSpan-1と組み合わせて評価されることが一般的です。

SPan-1

  • 対象臓器:膵臓・胆道など

Span-1はCA19-9やDUPAN-2に近いマーカーです。膵がん、胆道がん、肝細胞癌などで高い陽性率を示しますが、肝硬変、慢性肝炎などの肝臓の病気でも高い陽性率を示します。

AFP

  • 対象臓器:肝臓
  • 基準値の目安:10.0 ng/mL以下

AFP(α-フェトプロテイン)は主に肝細胞がんで高値となりますが、慢性肝炎・肝硬変・急性肝炎といった、がん以外の肝臓の病気でも上昇することがあります。
B型・C型肝炎でHBs抗原やHCV抗体が陽性の方が経過観察を受ける際には、肝機能の検査とあわせてAFPが定期的に測定されることが多いです。

 AFPには「AFP-L3分画」という、より肝細胞がんへの特異性を高めた検査があります。AFP全体のうち、L3という糖鎖構造を持つ分画の割合が一定以上になると、肝細胞がんの可能性がより強く示唆されるとされています。AFPの数値そのものは軽度の上昇にとどまっていても、L3分画の比率が高い場合は注意深い経過観察が必要と判断されることがあり、AFP単独では見えてこない情報を補う検査として位置づけられています。

エラスターゼ(エラスターゼ1)

  • 対象臓器:膵臓
  • 基準値の目安:300 ng/dL以下

エラスターゼ1は「膵がん」の腫瘍マーカーの一つですが、急性膵炎や慢性膵炎の急性増悪期など、膵臓に何らかの負荷がかかっている状態でも上昇します。

SCC抗原

  • 対象臓器:肺・子宮頸部・食道・皮膚など扁平上皮

SCC抗原は、扁平上皮という組織型のがん(肺の扁平上皮がん、子宮頸がん、食道がん、皮膚がんなど)で上昇するマーカーです。
良性の皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、乾癬など)や呼吸器疾患(肺炎、喘息など)、腎疾患(糖尿病性腎症、尿毒症)で上昇することがあります。

採血時に唾液・フケ・皮膚などが混入することにより、SCCが高値となる場合があります。

PIVKA-Ⅱ

  • 対象臓器:肝臓

PIVKA-Ⅱは、AFPと組み合わせて肝細胞がんの診断や経過観察に用いられるマーカーです。この2つのマーカーを併用することで、肝細胞がんの検出率を上げることができます。なお、ビタミンK不足や、ワルファリンなど一部の薬剤の影響でも数値が上昇することがあります。

血管が傷ついたときに、出血を止めるために血液をドミノ倒しのように次々と固めていく一連の成分があり、それらをまとめて「血液凝固因子」といいます。凝固因子の大部分は肝臓で産生されますが、そのうち第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の産生にはビタミンKが重要な役割を担っています。ビタミンKが欠乏していると、構造的に不完全な凝固因子が血中に放出されます。そのような不完全なものをPIVKA(protein induced by vitamin K absence or antagonist)と呼び、そのうち第Ⅱ因子の不完全な構造体を「PIVKA-Ⅱ」と呼びます。

PSA

  • 対象臓器:前立腺
  • 基準値の目安:4.000 ng/mL以下

PSA(前立腺特異抗原)は前立腺に関連するタンパク質で、前立腺がんの早期発見や再発の確認に役立つとされるマーカーです。
ただし、前立腺肥大症や前立腺炎、検査直前の自転車走行や性行為、尿道への刺激といった、がんとは関係のない要因でも上昇することがあり、精密検査での確認が必要になります。

PSAを測定すると、年齢が高いほど(前立腺に異常がなくても)高値である傾向がありますので、その傾向を踏まえて、「50〜64歳:3.000 ng/mL以下、65〜69歳:3.500ng/mL以下、70歳以上:4.000 ng/mL以下」といった年齢別の基準値を採用している場合もあります。

PSAのなかで「フリーPSA」という、他のタンパク質と結合せずに血液中に存在しているPSAの割合を測定することにより、前立腺癌と前立腺肥大症の鑑別(見分け)の一助となることが知られています。

CA15-3

  • 対象臓器:乳房
  • 基準値の目安:25 U/mL以下

CA15-3は乳がんで上昇するマーカーで、乳がんへの特異性は比較的高いとされています。ただし、原発(最初にできた)乳がんよりも、転移性・再発性の乳がんで陽性率が高くなる傾向があり、早期の乳がん発見よりも、再発確認や治療効果の判定に用いられることが多いマーカーです。

CA125

  • 対象臓器:卵巣・膵臓など
  • 基準値の目安:35 U/mL以下

CA125は「卵巣がん」の腫瘍マーカーとして頻用されています。
また、子宮内膜症、卵巣のう腫、子宮筋腫といった良性疾患でも上昇することがありますし、「膵がん」では50%程度で陽性になります。
CA125はエストロゲンと関連しているため、月経周期に伴って変動したり、妊娠時に上昇したりします。閉経後には低下します。

BCA225

  • 対象臓器:乳房

BCA225はCA15-3と同じく「乳がん」関連のマーカーです。原発の乳がんでも陽性になりますが、再発・転移の乳がんにおいても高い陽性率を示すため、治療の経過観察として有効とされています。

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この記事を書いた人

人間ドックや健診業務を中心に診療を行っている現役医師です。

「人間ドックの結果の紙、見方が難しすぎる」
「異常値を指摘されたけど、病院に行くべきか迷う…」

そんな受診者さんの疑問や不安を解消するために、このサイトを立ち上げました。「現役医師だからこそ語れるデータの読み方」と、「日常生活に取り入れたい具体的なセルフケア」を発信しています。

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