【医師解説】HCV抗体が陽性だった方へ|C型肝炎ウイルスと検査結果の見方を解説

人間ドックの結果表で「HCV抗体」という項目に「陽性」の文字を見つけて、不安になっている方もいらっしゃると思います。
C型肝炎と聞くと、「肝硬変」や「肝臓がん」といった重い言葉を連想しやすいかもしれませんが、実はこの数年でC型肝炎の治療は大きく様変わりしています。この記事では、HCV抗体という検査が何を調べているものなのか、陽性だった場合に何が起こりうるのか、そして今どのような治療の選択肢があるのかを、人間ドックに従事している医師の視点からお伝えしていきます。

人間ドック学会の判定区分

ABCD
HCV抗体陰性陽性

※ A:異常なし、 B:軽度異常、 C:要再検査・生活改善、 D:要精密検査・治療
※ 判定結果は、施設ごとや判定医ごとの基準、問診内容や過去の結果によって変わることがあります。

目次

C型肝炎とは何か

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV:Hepatitis C Virus)が肝臓に感染し、炎症を引き起こす病気です。A型・B型など他の肝炎ウイルスと同じ「肝炎ウイルス」というグループに分類されますが、感染経路や進行のしかたはそれぞれ異なります。

HCVの感染経路

HCVは、血液を介して感染します。日常生活での食事や会話、咳・くしゃみといった飛沫では、基本的に感染しません。感染経路としては、主に次のようなものが挙げられます。

  • 過去(特に1990年代以前)の輸血や血液製剤の使用
  • 針刺し事故など、医療従事者における職業的曝露
  • 消毒が不十分な器具を使った刺青やピアス
  • 注射器の使い回し

現在40〜50代以上の方の中には、過去の輸血歴や手術歴が感染のきっかけになっているケースが一定数見られます。ご本人に心当たりがなくても、過去の医療行為が背景にあることもあるため、「感染の心当たりがないから自分には関係ない」と決めつけず、一度は検査を受けておくことをおすすめします。

感染後の経過

C型肝炎ウイルスの感染は、B型肝炎と異なり、感染すると高い割合で持続感染に移行する(慢性化)という特徴があります。慢性化した状態を治療せずに長期間経過すると、肝臓の線維化が進み、その先に肝硬変、さらには肝細胞がんへとつながる可能性があることが知られています。この進行は多くの場合、数十年単位という緩やかな時間軸で起こるものです。

ただし、C型肝炎は近年もっとも治療が進歩した感染症の一つでもあります。かつてはインターフェロンによる治療が中心で副作用の負担も大きいものでしたが、現在は「直接作用型抗ウイルス薬(DAA)」と呼ばれる飲み薬による治療が主流になっており、8〜12週間程度の内服でウイルスを排除できるケースが大半を占めるようになっています。

C型肝炎の治療には医療費助成制度が用意されており、自治体の助成を利用することで自己負担を抑えて治療を受けられる場合があります。

「B型肝炎」についても知りたい方は、こちらの記事もご確認ください。

HCV抗体とは何か

HCV抗体は、C型肝炎ウイルス(HCV:Hepatitis C Virus)に対して身体が作る抗体の有無を調べる検査です。「陰性」が正常であり、「陽性」の場合は、現在か過去かを問わず、C型肝炎ウイルスに感染したことがあることを意味します。

ここで注意したいのは、「陽性=現在も感染している」とは限らないという点です。HCV抗体が陽性の場合、次の2つの可能性があります。

  • 現在もC型肝炎ウイルスに感染している状態
  • 過去に感染したが、その後ウイルスが排除され、体内にウイルスは残っていない状態

この2つを見分けるには、抗体の有無ではなく、ウイルスの遺伝子そのものを調べる「HCV-RNA検査」が必要になります。HCV抗体検査を受けただけでは、現在の感染があるかどうかまでは確定できない、ということです。

B型肝炎の「HBs抗体」とC型肝炎の「HCV抗体」は、異なる性質をもった抗体です。HBs抗体は「中和抗体」であり、体内に侵入してきたウイルスと結びついて、感染を防ぐ作用があります。つまり、HBs抗体が陽性であれば基本的にHBVに対する免疫を持っていることを意味します。
一方、健診で測定されるHCV抗体の多くは中和抗体ではないので、感染を防ぐ作用がどれくらいあるかは分からず、あくまで「過去に感染した目印」に過ぎません。また、HCVは遺伝子の多様性が大きいウイルスですので、ワクチンで予防するということもできませんし、治療でウイルスを排除した後であっても、再びC型肝炎ウイルスに曝露すれば再感染する可能性があります。(ただし、免疫記憶は存在しているので、過去に感染したことがない人よりは再感染の人の方が自然に排除される確率は高いです。)

また、HCV抗体は感染してから体内で作られるまでに2〜3ヶ月程度のタイムラグがあります。感染直後の検査ではまだ陽性反応が出ないことがあるため、心当たりのある曝露があった直後に「陰性だったから大丈夫」と自己判断しないようにしましょう。

どのような場合に医療機関への受診する必要があるの?

HCV抗体が陽性だった場合、症状の有無にかかわらず、一度は消化器内科(特に肝臓専門医)を受診してください。

また、以下に該当する方も、同様に受診の対象です。

  • 過去にHCV抗体陽性を指摘されたことがあるが、精密検査や病院での経過観察を受けられていない
  • 1990年代以前に輸血や大きな手術を受けたことがあるが、C型肝炎の検査を受けたことがない

日常生活で意識したいこと

過去にC型肝炎の治療を受けたことがある場合、以下のようなことに注意しましょう。

  • 治療完了後も、定期的な通院と、指示された間隔での血液検査・画像検査を継続することが推奨されています。
  • 過度な飲酒は肝臓への負担を増やす要因になるため、量を見直しましょう。
  • 治療でウイルスを排除した後も、防御免疫ができているとは限らないため、カミソリや歯ブラシなど血液が付着しうるものの共有を避けましょう。

まとめ

  • HCV抗体陽性は「現在または過去にC型肝炎ウイルスに感染したことがある」ことを示しますが、現在の感染の有無まではわかりません。
  • 現在の感染を確定させるには、HCV-RNA検査などの精密検査が必要です。
  • HCVは遺伝子の多様性が大きいので、過去に感染したことがあっても再感染する可能性があります。
  • C型肝炎は慢性化しやすい一方、近年では飲み薬(DAA)による治療が大きく進歩し、高い確率でウイルスを排除できるようになっています。
  • 症状の有無にかかわらず、HCV抗体が陽性であれば一度は専門医を受診することが推奨されます。

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この記事を書いた人

人間ドックや健診業務を中心に診療を行っている現役医師です。

「人間ドックの結果の紙、見方が難しすぎる」
「異常値を指摘されたけど、病院に行くべきか迷う…」

そんな受診者さんの疑問や不安を解消するために、このサイトを立ち上げました。「現役医師だからこそ語れるデータの読み方」と、「日常生活に取り入れたい具体的なセルフケア」を発信しています。

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