人間ドックの結果表に「血色素量(Hb)」「赤血球数(RBC)」「MCV」「MCH」「MCHC」など、謎のワードが並んでいて、どのように理解したら良いのかわからない、という方は多いはずです。
「C判定だったけれど、これは様子見でいいのか」
「『隠れ貧血』に当てはまっているかもしれないけど、どうしよう?」
このような疑問にもお答えしていきます。
この記事では、人間ドックに日常的に従事している医師が、ヘモグロビンそれ自体の解説から、数値が変動する原因、放置リスク、そして病院を受診すべき具体的な目安までを分かりやすく解説します。
人間ドック学会の判定区分
| A | B | C | D | |
| 血色素量(男性) | 13.1〜16.3 | 16.4〜18.0 | 12.1〜13.0 | 12.0以下、18.1以上 |
| 血色素量(女性) | 12.1〜14.5 | 14.6〜16.0 | 11.1〜12.0 | 11.0以下、16.1以上 |
※ A:異常なし、 B:軽度異常、 C:要再検査・生活改善、 D:要精密検査・治療
※ 血色素量の単位:g/dL
※ 日本人間ドック学会の判定区分では、赤血球系の異常についての判定は、血色素量(Hb)のみで行われています。
※ 判定結果は、施設ごとや判定医ごとの基準、問診内容や過去の数値によって変わることがあります。
血色素量・赤血球数・MCV・MCH・MCHCが表しているもの
血色素量(Hb):酸素を運べる容量そのもの
血色素(ヘモグロビン、Hb)は赤血球の中にあるタンパク質で、肺で受け取った酸素を全身の組織に届ける役割を持っています。Hbの値が低いということは、単純に「体全体に運べる酸素の総量が少ない」ということを意味します。
赤血球数(RBC):酸素を運ぶ「船」の数
赤血球はヘモグロビンを積んで全身を回る船のようなものです。
「白血球」や「血小板」が一緒に測定されることが多いため、「なんで貧血の評価には赤血球の数ではなくヘモグロビンを見るのか?」と思われる方もいるかもしれません。
貧血・多血というのは、血液の”酸素を運搬する能力”が低いか高いかというふうに考えていただいて結構です。
そうなると、実際に酸素と結合しているのはヘモグロビンですので、ヘモグロビンの量がその能力に最も大きな影響を与えることになりますね。
例えば、船の数(赤血球数)が多くても、一隻あたりの積み荷(ヘモグロビン量)が少なければ、結局運べる酸素の総量は増えません。これが、貧血の指標として赤血球数よりもヘモグロビンの量が重視される理由です。
MCV・MCH・MCHC:船一隻あたりの「大きさ」と「積み荷の量」
- MCV(平均赤血球容積):赤血球一個あたりの大きさ
- MCH(平均赤血球血色素量):赤血球一個あたりに積まれているヘモグロビンの量
- MCHC(平均赤血球血色素濃度):赤血球の中のヘモグロビンの濃度
これらは実測値ではなく、Hb・RBC・ヘマトクリット(Ht、赤血球の全容積が全血液中に占める割合)から計算で導き出される指数です。特に重視されるのは「MCV」で、この値をみると貧血を「小球性(船が小さい)」「正球性(普通サイズ)」「大球性(船が大きい)」に分類でき、それが、原因の見当をつける手がかりになります。
貧血(Hbが少ない)と多血(Hbが多い)の原因
貧血の原因
健診などでよくみる頻度の高い原因は、鉄欠乏性貧血です。
鉄はヘモグロビンの材料ですので、鉄が不足していると貧血を起こします。
鉄が不足する原因としては、普段の食事における鉄摂取不足、月経による慢性的な出血、消化管からの微量出血の持続などが挙げられます。
その他の貧血の原因については、以下のようなものが挙げられます。
- 消化管出血:胃潰瘍、大腸ポリープ・大腸がん、痔からの出血など。
- ビタミンB12・葉酸不足:偏った食事、胃切除後、吸収障害などによるもの。
- 腎機能の低下:赤血球を作るよう促すホルモン(エリスロポエチン)の産生が低下するためです。
- 骨髄の機能低下:再生不良性貧血や骨髄異形成症候群など、造血そのものに関わる病態。
- 溶血:赤血球が通常より早く壊れてしまう病態(自己免疫性溶血性貧血など)。
- 慢性炎症・膠原病・悪性腫瘍に伴う貧血:病気そのものが背景にある二次性のもの。
- 妊娠:血漿量の増加により相対的にHbが薄まる生理的な変化です。
- 日常的な激しい運動:長距離ランナーなどにみられます。血漿量増加による見かけ上の低下や、足底での機械的な赤血球破壊によるものです。
多血の原因
健診でよくみられる頻度の高い原因は、以下のようなものです。
- 喫煙:一酸化炭素への慢性的な曝露により、体が代償的に赤血球を増やします。
- 睡眠時無呼吸症候群:夜間の低酸素状態が続くことで赤血球産生が促されます。
- 多量の飲酒、脱水:血漿量が減ることで、赤血球やHbの濃度が見かけ上高く出ます(実際の赤血球総量は変化していないことが多いです)。
その他の原因としては、以下のようなものがあります。
- 高地での生活:酸素濃度の低い環境への適応反応です。
- 喫煙以外の慢性的な低酸素状態:慢性閉塞性肺疾患(COPD)など呼吸器疾患に伴うもの
- 腎臓の腫瘍など:エリスロポエチンが過剰に産生されるケース
- 真性多血症(骨髄増殖性腫瘍の一種):JAK2遺伝子変異などが関与する、赤血球そのものが自律的に増える病態(頻度は高くないです)。
- 利尿薬の使用:血漿量減少に伴う見かけ上の上昇
貧血・多血を放置するとどうなるの?
貧血を放置すると⋯
貧血の症状としては、「疲れやすい」「だるい」「階段をのぼるときに息切れがする」「集中力が低下する」「めまいがある」などが挙げられます。
また、慢性的に貧血があり酸素運搬能力が低い状態が続くと、心臓はより多くの血液を送り出そうと働きます。この状態が長期間続くと、心臓の機能に影響してしまいます。
また、鉄欠乏性貧血の背景に、消化管からの慢性的な出血が隠れているケースもあり、特に「胃がん」「大腸がん」といった悪性腫瘍が見逃されている可能性もあるので注意が必要です。
多血を放置すると⋯
赤血球が相対的または絶対的に増えて血液の粘度が高くなると、血流が悪くなりやすい状態になります。これは血栓症(脳梗塞や心筋梗塞など)のリスクになるとされています。ただし、多血の多くは喫煙や睡眠時無呼吸、脱水などによる二次性のもので、真性多血症のような血液疾患は頻度としては多くありません。
どのような場合に医療機関へ受診するべきか
以下に該当する場合や、「D判定」と言われた方は、次回の人間ドックや健診まで様子を見るのではなく、早めに医療機関を受診することを推奨します。
- Hbが男性13g/dL未満、女性12g/dL未満で、かつ動悸・息切れ・立ちくらみを伴う場合
- Hbが10g/dL程度以下
- 黒色便・血便がある、あるいは、意識していないのに体重が減ってきている場合
これらに当てはまらない方や、「B判定」「C判定」だった方は、多くの場合、生活習慣の見直しや再検査で対応して良いということになります。
日常生活に取り入れたいセルフケア
貧血傾向の場合
- 赤身の肉(特に牛・豚)、レバー、青魚、大豆製品など鉄分を含む食品を意識的に取り入れる。
- 鉄はビタミンCと一緒に摂ると吸収されやすくなるため、食後に果物を添えるなど組み合わせを工夫する。
- コーヒーや緑茶に含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げることがあるため、鉄分を意識する食事の直後は避ける。
- 女性の場合、月経量が多い自覚があれば、婦人科受診も検討してみてください。
多血傾向の場合
- 喫煙している場合は禁煙を行いましょう。
- こまめな水分補給を心がける。お酒の量を控える。
- いびきが大きい、日中の眠気が強いなど睡眠時無呼吸症候群を疑う所見があれば、睡眠外来などの受診し、検査を受けましょう。自宅でできる簡易的な検査があります。
忙しい日常での継続の工夫
「毎日、赤身肉やレバーを食べる」「禁煙外来に欠かさず通う」と意気込んでも、なかなか続かないのが生活改善です。ここでは、根性に頼らず生活改善を続ける方法をいくつか紹介します。
- 冷凍宅配食の活用:鉄分やたんぱく質を考慮したメニューを提供する宅配食サービスを定期便として組み込んでおけば、献立を考える手間自体をなくすことができます。忙しい平日だけ利用し、週末は自炊するといった使い方も良いですね。
- 常備できる補食を決めておく:小魚アーモンドやミックスナッツ、ゆで卵など、買い置きしておける鉄分・たんぱく質補給源をデスクや鞄に常備しておくと、外食続きの週でも極端な偏りを避けやすくなります。
- 禁煙・節酒はアプリでの記録から:意志の力に頼るより、禁煙記録アプリや飲酒量記録アプリで可視化する方が、継続率が上がりやすいとされています。また、オンラインの禁煙外来も便利だと思います。
- 次回採血日をカレンダーに先に入れる:C判定だった項目は、3〜6ヶ月後の再検査時期をあらかじめ予定に入れておくことで、「先延ばしのまま忘れてしまう」のを防げます。
「隠れ貧血」(フェリチン低下)とは
Hb(血色素量)が基準範囲内であっても、体内の「貯蔵鉄」が減少しているという状態があります。
これがいわゆる「隠れ貧血」で、”フェリチン”という貯蔵鉄の量を反映する項目を測定して初めて見つかることが多いものですが、人間ドックでは基本的にフェリチンを測定しないので、見逃されている事が多いです。
フェリチンとは何か
鉄は、血液中だけでなく、肝臓・脾臓・骨髄などに蓄えられています。フェリチンはこの貯金の量を反映する指標であり、貯蔵鉄が減り始めた段階では、まずフェリチンが先に低下し、Hb(ヘモグロビンの量)はまだ基準範囲内に踏みとどまっていることがあります。つまり、フェリチンの低下はHbの低下より一足早く現れる、いわば貧血の予兆にあたります。
どういった場合に受診すべきか
だるさ、抜け毛の増加、爪が割れやすい、氷を無性に食べたくなる(氷食症)といった症状に心当たりがあり、かつ月経量が多い自覚がある、あるいは持久系の運動習慣がある場合は、内科などに受診し、フェリチンの測定をできるか相談してみましょう。
また、「隠れ貧血」は、睡眠関係の問題(中途覚醒や日中の眠気など)の原因になっていることもあります。
まとめ
- Hb・RBC・MCV・MCH・MCHCは、貧血・多血の評価においてそれぞれ役割が異なる指標であり、判定はHbを中心に行われます。
- 貧血・多血のいずれも、多くは生活背景に原因がありますが、消化管出血や血液疾患が隠れているケースもあります。
- セルフケアは「根性で頑張り続ける」より「仕組み化して続く形にする」ことを優先しましょう。



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