人間ドックの結果表に「HBs抗原」「HBs抗体」という項目を見つけて、聞き慣れないワードに戸惑った方も多いのではないでしょうか。
特に、「陽性」の記載を見て、どう受け止めればよいかわからないという方もいらっしゃると思います。
この記事では、B型肝炎に関する検査が何を調べているものなのか、陽性・陰性がそれぞれ何を意味するのかなどを、人間ドックに従事している医師の視点から解説していきます。
健診で初めて「HBs抗原陽性」を指摘された場合、消化器内科(特に肝臓専門医)への受診が必要です。
人間ドック学会の判定区分
| A | B | C | D | |
| HBs抗原 | 陰性 | 陽性 |
※ A:異常なし、 B:軽度異常、 C:要再検査・生活改善、 D:要精密検査・治療
※ HBs抗体の判定区分は定められていません。
※ 判定結果は、施設ごとや判定医ごとの基準、問診内容や過去の数値によって変わることがあります。
B型肝炎ウイルスとは
B型肝炎ウイルス(HBV: Hepatitis B Virus)は、肝臓に感染して炎症を引き起こすウイルスの一種です。A型肝炎・C型肝炎など他の肝炎ウイルスと同じく「肝炎ウイルス」というグループに分類されますが、感染経路や性質はそれぞれの型によって異なります。
感染経路
HBVは主に血液や体液を介して感染します。感染経路は大きく2つに分けられます。
- 母子感染(垂直感染):HBVに感染している母親から、出産時に赤ちゃんへ感染するケースです。日本では過去、この経路による感染が多くを占めていました
- 水平感染:医療現場での針刺し事故、感染者との性交渉、ピアスや入れ墨の器具の使い回しなど、血液や体液を介した接触によるケースです。
日常生活での食事や会話、咳・くしゃみなどの飛沫では、基本的に感染しません。
感染した年齢によって経過が変わる
HBVの経過を理解するうえで欠かせないのが、「感染した時期によって、その後の経過が大きく変わる」という特徴です。
- 乳幼児期に感染した場合:免疫の仕組みがまだ十分に育っていないため、ウイルスを排除しきれず、体内にウイルスが棲みついたまま持続感染する状態(キャリア)になりやすいことが知られています
- 成人になってから感染した場合:多くは一過性の急性肝炎として経過し、免疫の働きによってウイルスが排除され、治癒に至ることが大半です。しかし近年では、肝炎が遷延し慢性化しやすいジェノタイプAのHBVが広がってきています。
日本におけるHBV感染の広がり
日本国内では、HBVに持続感染している方(キャリア)は人口のおよそ1〜2%程度いるとされています。多くの方は自覚症状のないまま経過しており、人間ドックや健康診断でのHBs抗原検査によって初めて感染を指摘されるケースも少なくありません。
B型肝炎の検査でわかること
HBs抗原とHBs抗体、それぞれが示すもの
B型肝炎ウイルス(HBV)に関する人間ドックの基本項目は、主に「HBs抗原」と「HBs抗体」の2つです。名前が似ているため混同されがちですが、意味するところはまったく異なります。
- HBs抗原:ウイルスそのものの表面にあるタンパク質。これが陽性ということは、「現在、血液中にB型肝炎ウイルスが存在している」ことを意味します。
- HBs抗体:ウイルスに対抗するために体が作る物質。これが陽性ということは、「ワクチン接種によって免疫ができている」か「過去にウイルスに感染して治った(既往感染)」かのいずれかを意味します。
つまり、HBs抗原は「今の感染の有無」、HBs抗体は「過去の感染歴または免疫の有無」を見ている、と整理すると理解しやすいと思います。
陽性・陰性の組み合わせでわかること
HBs抗原とHBs抗体の組み合わせによって、体の状態はいくつかのパターンに分かれます。
- 両方陰性:B型肝炎ウイルスに感染したことがなく、免疫も持っていない状態
- 抗原が陽性・抗体が陰性:現在ウイルスに感染している状態
- 抗原が陰性・抗体が陽性:過去に感染して治った(既往感染)、またはワクチンで免疫を獲得した状態
自分がどのパターンに該当するかは、検査結果表の両方の項目を照らし合わせることで把握できます。
陽性だった場合、将来的にどうなるの?
HBs抗原が陽性であるからといって、必ずしも肝炎を発症したり、肝機能の低下が進行したりするわけではありません。感染していても肝機能に異常がなく、症状もない「無症候性キャリア」の状態で経過する方も少なくありません。
一方で、感染が持続する中で、一部の方では慢性肝炎、さらに進行すると肝硬変や肝細胞がんへとつながる可能性があることが知られています。このような進行は多くの場合、年単位という緩やかな時間軸で起こるものであり、陽性がわかった時点で慌てて何かを決断する必要があるわけではありません。まずは専門医のもとで、ウイルスの活動性や肝機能の状態を確認することが、次の一歩になります。
どういう場合に医療機関への受診したら良いの?
HBs抗原が陽性だった場合、症状の有無にかかわらず、一度は消化器内科(特に肝臓専門医)を受診してください。
以下に該当する方も、同様に受診の対象です。
- 過去にHBs抗原陽性を指摘されたことがあるが、その後、専門医に受診できていない
- B型肝炎に感染した覚えもワクチンを接種した覚えもないのにHBs抗体が陽性だった
日常生活で意識したいこと
感染がわかった場合
- 定期的な通院と、指示された間隔での血液検査・画像検査(腹部超音波など)を継続する
- 過度な飲酒は肝臓への負担を増やす要因になるため、量を見直す
- 血液を介して感染するウイルスであるため、家族やパートナーとは、カミソリや歯ブラシなど血液が付着しうるものの共有を避ける
- パートナーがいる場合は、感染の有無について確認し、必要に応じてワクチン接種を検討してもらう
感染していない・免疫がない場合
B型肝炎はワクチンによって予防可能な感染症です。
医療従事者など感染リスクが高い職業の方や、家族に感染者がいる方は、ワクチン接種を検討する価値があります。
まとめ
- HBs抗原は「現在の感染の有無」、HBs抗体は「過去の感染歴・免疫の有無」を示します。
- 自覚症状が出にくい病気のため、無症状でも定期検査によって早期に感染の状態を把握することが大切です。
- HBs抗原陽性のすべての方で肝炎が進行していくわけではないですが、一部の方は慢性肝炎・肝硬変・肝細胞がんへ進行していく可能性があるため、専門医のもとでの経過観察が推奨されます。
- 陽性が判明した場合は、まず一度専門医を受診し、ウイルスの活動性を確認しましょう。
- ワクチンで予防可能な感染症であり、未感染・未接種の方は状況に応じて接種を検討する余地があります。

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